株式会社ヤクルト本社
株式会社ヤクルト本社
人材開発センター 所長 金谷 範人氏
人材開発センター 主任 平田 仁美氏
人材開発センター 栂尾 瑞歩氏
ヤクルト本社さまの事業の成り立ちについてお聞かせいただけますか?
金谷さま:当社は、創始者 代田 稔が「感染症で苦しむ人々をたすけたい」という想いから、「乳酸菌 シロタ株」を見出し、世に送り出したところから始まります。
代田氏が大切にしていた考え方は大きく3つあります。1つ目は、病気を未然に予防する「予防医学」。2つ目は、腸を丈夫にすることが、健康で長生きすることにつながるという「健腸長寿」。3つ目は、一人でも多くの人に飲んでもらうための「誰もが手に入れられる価格で」です。
この考えは「代田イズム」として、現在もヤクルトの事業の原点となっています。
そして、日本から始まった“大きな社会課題であった人々の「健康」に貢献したい” という想い、考え方は世界に広がり、現在では日本を含む40の国と地域で、1日当たり4,000万本以上の乳製品をご愛飲いただくまでになりました。
河北:成り立ちや事業自体に素晴らしい意味づけがあり、経営としてのダイナミズムをお持ちです。且つ社員様の働きがいにも繋がりやすく、十分にアドバンテージですね。
変化が激しい世の中で、社員育成に注力しているポイントをお聞かせいただけますか?
金谷さま:まず2020年度に、経営戦略『Yakult Group Global Vision 2030』との連動を意識し、人材育成計画を再構築しました。
その中で、「『個』が成長、活躍できる組織への変化」を基本方針として掲げ、「組織力の最大限の発揮」に向けて、個人が生き生きと働くことができる環境づくりをしながら実行しています。
特に「グローバル人材養成の強化」「職場を活性化し、組織力にかえる職場内教育」「キャリア自立に向けた活躍支援」を重点テーマに据えて、様々な教育施策を実施しています。
それを下支えする環境づくりの第一歩として、ダイバーシティ&インクルージョンの推進を進めており、特に女性活躍については当社の重要取り組み課題として捉えています。両立や活躍をサポートするために、「制度面」においては副業制度の導入や勤務形態の多様化等、多様な働き方を選択できる環境の整備などを進めてきました。また、「教育面」では研修やセミナーを実施し、自身のありたい姿やキャリアを考える契機としました。
特にこれからのVUCAの時代には、環境の変化に対応すべく、自身のキャリアを棚卸する時間を定期的に持ち、それに応じた支援体系を構築することが重要だと考えています。
社内イベントである「女性のためのキャリアアップセミナー」をご導入いただきましたが、スタートのきっかけを教えていただけますか?
金谷さま: 「女性のためのキャリアアップセミナー」導入の背景は2つあります。
1つ目は、前述した当社の長期ビジョン「Yakult Group Global Vision 2030 」によります。「変革への挑戦」を基本方針として掲げており、2030年に向けて、代田イズムを継承しつつ、現代そして将来の社会課題に対応できるよう事業の枠組みを進化させていく必要があります。
2つ目は、外部環境によります。2015年に女性の能力が十分に発揮できる社会を実現するため、「女性活躍推進法」が成立し、近年は、「女性活躍」の場を拡大する目的として、性別を問わず優秀な人材を確保し、女性が参画することで「女性ならではの見方や考え方」を経営に活かすことが求められています。当社の長期ビジョンとこのような時代背景を受けて、社員一人ひとりが高い視座を持って考え抜き、自ら歩みたいキャリアや挑戦したいことをできるだけ具体的に描いてもらえるよう、本セミナーを導入しました。
河北:大事にしていたポイントはありますか。また、当社との取り組みで感じたことや、当社を選定していただいた理由をお聞かせください。
金谷さま:幅広い対象へのアプローチを大事にしていました。次のステップとして、会社全体の風土を変えて推進していく一歩を踏み出したいという想いがあります。
つまり、「女性のためのキャリアアップセミナー」と銘打ちながらも、上層部含め、会社全体へのアピール、考え方を社内浸透させることが狙いです。
貴社の皆さんとお話していくなかで、豊富なご経験と行動や想いに共感し、一緒に議論する中で「いいものが生まれるかも」と感じたのがお付き合いの強いきっかけですね。河北さんから率直なご意見をいただけて、本音でぶつかりあえたこともよかったと思っています。
登壇者や講師として、当社に来ていただいた方だけではなく、オーセンティックリーダースクールのキャリアやリーダーシップの定例イベントにおいて社会的な広がりを提示されていることや、登壇されるエグゼクティブの方々も非常に素晴らしく、河北さんの人脈にも感銘を受けました。
ビジネススクールの定例イベントは、社会は変化していることを捉えてほしい、今小さな枠組みから越境し、世界観を広げて自らのキャリアやリーダーシップを考えてみよう、というイベントです。 この度は、キャリアアップセミナーとして、カスタマイズした社内イベントのご依頼でした。参加者の反応や周囲への影響はいかがですか?
平田さま:参加者の方々からは「他者の話(モヤモヤ、行動、考え方等)を聞くことで、前向きな気持ちになった」「他者のキャリアアップスタイルやリーダーシップスタイルを聞くことで、自分らしいスタイルを考える機会となった」「自社や自身の強みや課題を客観的に考えることができた」という声があがりました。参加者の上司からも、「セミナー直後に部下と改めてキャリアについて話す機会を持てて良いきっかけとなった」とも聞いています。実施して良かったと感じました。
金谷さま:社内のパネラーにとっても気付きに繋がりました。やはり自分を振り返ることはとても大事で、女性のキャリア研修以外でも、全ての研修で「振り返りでさまざまな気付きが生まれる、前に進むことができる」と伝えるようにしています。
河北:登壇者を社内と社外の両方から入れられていたのは狙いをお持ちだと思います。セミナー実施後の受講者の声では「もう少し社内の人のお話を聞きたい」という声もありましたね。
金谷さま:基調講演も、パネルディスカッションや分科会も、とても良い流れでした。社外の方から得る刺激は、社会変化や自社をより強くするためにも大変有効です。賛否はありますが、さまざまな声が上がり、課題が浮き彫りになることが重要です。
それぞれの立場から考える部分や掴む部分はもちろん、悩む部分も違います。
しかし共通点はどこかにありますし、今回のセミナー後も振り返り研修を実施するなどでまた学習をしていく部分ですね。 よく「背中を見る」とは言いますが、他者のその背中から読み取っていくことで、失敗や成功、キラキラした部分、ドロドロした部分など多角的に何かを学んでいくプロセスを掴んでもらいたいです。
また、今回は登壇者として社内と社外の双方の方に登壇してもらいました。社外の方にも登壇いただくことで、自社や自身を客観視できる機会にもなりました。
河北:今回のプログラムの工夫点としては、対象者の多様性を拡大させ全員で意識共有していただく部分と、これまで積み上げ育成をしてきた皆さんを一律にせず、一人ひとりがもう一つ上のアプローチに前進するように分けてアウトプットを変える等内容を工夫しましたが、こちらはいかがでしたか?
金谷さま:企画職だけではなく業務職のメンバーにも参加してもらったことで、評価は高かったですし、 身近に感じられて気付きも多かったですね。一方で、物足りないという方もいました。聞くだけではなく、もっとアウトプットしたり、フィードバックをもらったりしたいという声もありました。
河北:はい、報告のデータの中に「フィードバックやアドバイスがほしい」というお声もありました。正しい答えを教えてほしい、そして前に進みたいという、皆さんのポジティブな 意思を感じました。しかし同時に「答えは自分の中にあり」「自ら、悩みながら意味づけを考え、意図を持って行動する」ということもまた重要です。組織と社員さまの共創、一人 ひとりの可能性は本当に無限大ですね。そのために成果につながる場や打ち手を今後も提供していきたいです。
河北:丁寧に人材育成をしていく貴社ですが「意外にできるんだ」「ここまでやっ ても平気なんだ」と感じられた部分はありますか?
金谷さま:セミナーに出て感動したのは、女性社員は驚くほど色々なことを考えていますし、キャリアアップに対して、さまざまな考えを持っていると実感しました。ただ、環境的な問題があったり、上司に伝わっていなかったり、言えていなかったりしているのが、いちばんの課題です。 セミナーでは社員の声が直に聞けるので、嬉しいですね。あらためて当社の社員は優秀だなと思いました。
栂尾さま:金谷が感じているように、皆さまが何を考えているか、どういうキャリアを描こうとしているのかを知ることができれば、身近に同じような境遇の方がいない場合にも、お手本としたい方を見つけることができると感じました。
受講者の声としても、「業務職と企画職のパネラーがいたため、幅広い価値観やキャリアイメージを聞くことができてよかった。社歴やライフステージ、また環境や業務内容によっても価値観も変化することも分かり参考になった。」との声がありました。
また、研修を通じて、「もっと自分を成長させたい」と感じている方がたくさんいらっしゃることを知りました。その方たちに対して、部署として支援体系を構築していけるよう尽力したいと考えています。
河北:今回のご参加は141名と大人数でしたね。現場のコミュニケーションが変わったと いう方もいらっしゃったとお聞きしていますが?
平田さま:この1回のセミナーで現場のコミュニケーションが大きく変わった印象はまだ持てていませんが、女性自身や上司の意識は間違いなく変わる時間だったと思います。私自身も「自分が動かないと何も変わらない」「自分から発信しないと伝わらない」という当たり前のことですが、改めてまずは自分からコミュニケーションを変えていこうという気持ちになりました。 このセミナーだけの影響ではないと思いますが、10年前の当社と比べると、個々のこんなことしてみたい!これはどうか?が言いやすい・行動しやすい環境になっているように思います。
河北:日常のお仕事のなかで小さな変化や風土の変化等、あちらこちらで出てくると良いですね。またその後のフォローなどはいかがですか?
平田さま:アフターフォローなどはまだできていないので、考える必要があります。研修受講直後はモチベーションが高まりますが、気づいたら目の前の業務に忙殺されてしまい視野も狭くなってしまいがちですので、やはり定期的に一歩外から自分を見つめる時間は必要だと思います。それが研修ではなく職場内で実施していけると良いなと思っています。例えば職場内での1on1を強化するなど、自分のキャリアについて上司などと対話できる機会が増えると良いですね。
金谷さま: 職場内のフォローなどは少しずつ進んでいると感じることが多くなりました。特に若手から中堅の層、特に女性は意識を持って、注目しています。
今回は規模も大きくなり、上司も参加する動きもあったので、会社の意思は伝わっているのではないでしょうか。また、上司の巻き込みといった点では実感が薄いのが実情ですが時間がかかると認識しているので、これからも継続したいです。
次はぜひ上司の方々も繋がって伸びていくようにできたら良いですね。今後は「ここをこう動かしていきたい」という思いがあれば、お聞かせいただけますか?
金谷さま:冒頭に話した4つの制度と個人、マネジメント、組織風土を手がけられたので、今後は包括的に進めていきたいです。以前よりステップアップを意識して、人事制度と絡めたキャリアパスなどを意識させながら、ロールモデルを創る段階に入ってきました。上司や全体の巻き込みもやりながら組み立てていきたいですね。
河北:全社として自分ごとにするためにも、女性に限定せずにそろそろ全社的に実施するのも良いかもしれませんね。
金谷さま:パネラーで上司が1人入るだけでも違いますよね。なかなか出たがらない方が多いのですが、しっかりと人選をしていきたいです。
河北:今回登壇された社員の方々のその後の動きについては、いかがでしょうか?
金谷さま:とてもモチベーションが上がっています。登壇したうちのひとりは、登壇して話をすることにより、自分のことを整理できたことが、とても良かったと言っていました。次回はぜひ平田を出してみたいですね。
河北:そうしてさまざまな方が関わり合って動いていくことで、皆さんの可能性が相互に関連しあいながら、点が線へ、そして面となり、さらに影響を与え合って伸びていくと思います。 最後に、この度の取り組みは、意味や価値はありましたか?
金谷さま:意味や価値は非常にあったと思います。女性活躍のために何かしなくてはという 思いでしたが、意味づけもはっきりしました。
また、他社の方との情報交換や繋がりも大事だと思っています。 そういった交流なども積極的にやっていきたいですし、自分自身もやらなければと思いますね。